北欧デンマーク通信
デンマークの教育や生活、働き方、制度やデンマーク人の考え方について
こんにちは!デンマーク公認ライセンスガイド・通訳・コーディネーターのウィンザー庸子です。
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デンマークの人口は約580万人で、これは兵庫県の人口規模とほぼ同じとなっています。ちなみに、コペンハーゲン市の人口は市内が約65万人、市外の住宅地なども入れたコペンハーゲン圏では約130万人で、これは神戸市の人口規模に匹敵します。国土の大きさは九州くらいです。
我が家には、デンマーク人の主人、デンマーク人でもあり日本人でもある、中学校1年生と、4年生の男子2人と、1歳のちょうどお誕生日の日から保育園に入った3歳の女子1人と、日本人の私がいます。
そこで私たちがデンマークで生活する中で感じる、デンマークの教育や、仕事や、生活や制度、デンマーク人の考え方について、お話したいと思います。
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デンマークで産科病棟の労働環境問題
デンマークでは、特別な問題がない場合には、自然分娩は助産師が取り扱います。
命の誕生を担う助産師の労働環境が改善されていないことが今デンマークでは問題となっています。
カミーラ・バック氏は、2018年の秋、3年間助産師として勤務したヘアレウ病院を辞めました。仕事における極度のプレッシャーから、職場に向かう車の中で泣いてしまったことを覚えています。
「最終的に、1か月病欠してしまったのです。それで、産科にまた復帰して、働くということを、どうしてもしたくないと思ってしまいました。」
コペンハーゲン首都県の病院で確実なキャリアのチャンスがあったのにもかかわらず、カミーラ氏は助産師の職を捨ててしまいました。
「私は29歳でしたが、既に退職して年金を受給する日を数え始めてしまった為、助産師を辞めました。自分の人生を幸せだと思えなくなってしまったのです。」
カミーラ氏は現在南デンマーク大学で、情報処理学の修士課程に進んでいます。
カミーラ氏の経験は、ヘアレウ病院で生じている、産科業務の極度の緊張を表す一例にすぎません。デンマーク国営放送がインタビューした、以前ヘアレウ病院で助産師をしていた5人全員が、退職の理由を仕事上の大きなプレッシャーにあったと答えています。
そしてこの問題は、現在も進行中であることが分かっています。
2018から労働監督庁は、ヘアレウ病院の医院長に何度も、極度のプレッシャーのある産科の労働環境を改善するよう求めてきました。労働監督庁とヘアレウ病院のやり取りが文書として残っています。
2018年7月既に労働監督庁は、産科の業務上のプレッシャーが助産師の健康を害している旨の禁止命令を下していました。業務上のプレッシャーがあまりにも大きいことの例として、夜勤中の助産師が水分と食料を補給出来ずに倒れてしまったので同僚が代わりとしなければならなくなったことや、トイレに行く暇もなかった助産師が、失禁してしまったことが挙げられていました。
労働監督庁の禁止命令にもかかわらず、助産師は現在もトイレに行く時間を取ることも難しい状況にあります。そして現在も、3年前上述のカミーラ氏が経験したように、産科に仕事に行こうとして泣き出してしまう助産師が多くいると、労働監督庁とヘアレウ病院のやり取りには記されています。
ヘアレウ病院が状況を改善できないことから、労働監督庁は、2019年9月と2020年2月には、警察に訴状を送るか罰金を科すべきであると警告しました。
しかしこの警告にもかかわらず、ヘアレウ病院では2018年に禁止命令を受けた時の忙しすぎる状況から改善が見られていません。ヘアレウ病院のレネ・プリース副医院長は、この状況に対して謝罪を述べています。
「未だに禁止命令を受けていることを本当に申し訳ないと思っています。常に改善観向けて努力しているのですが。出産する患者さんの為にも、この状況に置かれている職員の為にも。」
2020年11月のコペンハーゲン首都県の数字では、ヘアレウ病院の産科で病欠をしている職員の割合が9.6%に上っており、首都県の産科の中で著しく高い病欠率であることが分かっています。
労働監督庁によると、この病欠の中には、長期的な病欠が含まれています。ロスキレ大学の労働研究所のクラウス・T・ニールセン准教授は、これは驚くに値しないと述べます。
「助産師が長期的に病欠となってしまう原因は、自分の仕事に対してコントロールや管理ができないと感じてしまうことにあります。自分の仕事の全体が見通せないという思いが、ストレスを引き起こすのです。」
クラウス准教授は、多くの助産師が、労働監督庁に、忙しさが患者さんに害を及ぼすのではないかと懸念してしまうことが、大きなストレスの要因となっていると話しています。
「助産師は母親と父親と生まれてくる子供に対して大変に大きな責任を負っています。従って、助産師は、貴方や私が自分の仕事に対してコントロールが取れないと感じた時以上に、大きなストレスを感じ、難しい状況に陥ってしまうのです。」
2018年、および最新の監査訪問が行われた2020年11月の両方において、助産師は労働監督庁に、忙しさの為に誤った医療行為が行われてしまったり、適用されるべき産科の基準が守られなかったりしたことがあったと述べています。
2021年2月12日、労働監督庁は患者安全庁に参加の状態を確認するよう勧告したことが文書で残っています。この勧告を受けて、患者安全庁は、「該当する科における患者の安全性の評価」を目的とした監査案件を立てています。
2020年には少なくとも215人の妊婦が出産が始まっているのにも関わらず、助産師が忙しすぎて対応できず、別の病院に送られたことが、首都県のデータから分かっています。
上述のヘアレウ病院のレネ・プリース副医院長は、「出産に当たって望ましくない対応を受けてしまった妊婦さんに最も申し訳なく思っています。しかし同時に、大変多くの妊婦さんがヘアレウ・ゲントフテ病院でとても良い出産を経験されていることも事実です。」と述べました。
実はとても有難かったと思っている妊婦の一人は私自身です。私は2018年2月に娘をヘアレウ病院で産みました。私はいつも早産してしまい、また産むときもとても早く進行してしまいます。当時病院から1時間くらいの遠い場所に住んでおり、寒い中車を待ちながら結局街頭で産んでしまったらどうしようと不安に思い、助産師さんから検診時に、お医者様に相談する機会をもらってヘアレウ病院に出かけました。その検査において、お医者様が、あれ、もう開いてるからもうすぐ産まれるよ、今夜は泊まった方がいいと言って下さって、その3時間後には産んでいました。陣痛が本格的に始まってもう着替えられなくなると思って今のうちに着替えさせて下さいと訴えるまで、ちょっとそこで待っていてと待合室に2時間位置かれたままでしたが、デンマークだから言わないとそんなもんかなと思い、それ以外は、私は、ヘアレウ病院の助産師さんの労働状況がそんな厳しいものだったなんて、全く感じませんでした。娘はやはり早産でしたので、1週間入院させてもらい、看護師さんに厳しく授乳管理と指導を受けました。今は娘は3歳となり、元気に育っています。
労働監督庁は2回もヘアレウ病院の産科を警察に届け出ると警告しましたが、現時点ではまだ一度も本当に届け出てはいません。労働監督庁のメッテ・アドルフ・フルド監督長は、2020年2月11日に最新の警察に訴状を提出するという警告に対して、ヘアレウ病院医院長が、産科に対して労働環境の改善をする自主措置を開始した為と回答しました。
しかし、2020年2月11日から11月まで、ヘアレウ病院の産科で自主措置が開始されたという文書は残っていません。更に、2020年12月23日、労働監督庁はヘアレウ病院の産科に対し、新たな禁止命令を出しています。
これに関して上述のメッテ監督長は、「新たな禁止命令は、ヘアレウ病院が労働環境を改善する取り組みを開始したにもかからず、労働環境において業務量と時間的プレッシャーが大きく、助産師の安全と健康を守る責任を果たすことが出来ないものであった為です。」と述べています。
上述のレネ副医院長は、まだしばらく産科の業務上のプレッシャーは大きいものであり続けることを認めています。
「今日もまだ忙しいことがあります。とても忙しい日もあれば、あまり忙しくない日もあります。」
外部から見ると、病院の管理職が禁止命令を真剣に受け止めていないように見られるという問いに対して、レネ副委員長は、
「私はヘアレウ病院に来てから1年半ですが、私も現在の産科科長も、産科の状況改善に関して注視しています。」と述べます。
レネ副委員長は、産科で新しく社会保健アシスタントを雇用して、助産師の業務をサポートできるようにしたと述べます。
「助産師が、時間的にも業務内容的にも、出産に集中できるように対応しています。」
デンマーク国営放送が、首都県の産科の状況が切迫していることを報道してから、首都県は、産科の状況改善の為に、2400万クローネ(約4億2千万円)の予算を計上しました。
上述のレネ副医院長は、「首都県の政治家が予算を立てて、この分野の優先度を高くしてくれたことを喜ばしく思います。これで、より多くの助産師を雇用することが出来ます。」と述べます。
しかし実は、より多くの助産師を雇用するというのは、言うは易し行うは難しでもあります。2020年11月の労働監督庁の報告によると、2018年以降、ヘアレウ病院の産科では、助産師の募集が続いています。しかし、例えば「(遠い)ユトランド半島から通勤してもらう、新しい助産師」等の取り組みを行っても、雇用に至っていません。
首都県のデータでは、2021年2月に12名分の助産師が足りていないことが分かっています。助産師の不足は、業務に就いている助産師の作業量が増えてしまい、業務上のプレッシャーを高めてしまいます。
「現在は悪い循環となってしまっています。労働環境が悪く、その為助産師が職を離れてしまいます。何とかして助産師に仕事に戻ってきてもらう必要があります。」と上述のカミーラ氏は述べます。
カミーラ氏はヘアレウ病院での日々から大きな代償を受けましたが、産科のチーム力を恋しくも思っています。政治家が、同僚の助産師の状況を改善するには、より多くの助産師を雇用する必要があるとカミーラ氏は考えます。
「もっと多くの助産師を雇用すべきです。また、産科の規模を小さくすべきです。最も重要なのは職務文化を変化させて、助産師の仕事の価値をもっと認識することだと思います。」
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北欧デンマーク通信
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