デンマークの理学療法をご視察くださいました◇様のご厚意により、「貴重な経験をする事ができ、誠に感謝しております。」というお言葉と共に、今後デンマークでのご視察をご検討されていらっしゃる方へのご参考のため、以下のご報告書をご共有いただきました。◇様、本当にありがとうございました!
A:Sundhedshuset amagaにて高齢者に向けたポケットに入れるタイプの遠隔センサー・アプリ
B:Sundhedshuset amaga外観
C・E: University of Copenhagen ハーネスを使用した着座訓練様子
D:University of Copenhagen リハビリ室内 手前トレッドミル 奥クライムミル
F:University of Copenhagen 外観
施設訪問の内容
このたび海外研修制度を利用し、デンマークの首都コペンハーゲンに位置するSundhedshuset amagarとUniversity of Copenhagenを見学させていただいた。デンマークでは急性期にてOPE後3日程で退院し、通所・訪問・在宅トレーニングを使用し回復に努めるスタイルが一般的であるが、退院後にどのような介入がなされているのか、両施設でその実際を見聞きすることができた。
Sundhedshuset amagarは日本でいう回復期病院の役割をしている施設である。こちらでは急性期後の患者様に対し、通所・訪問・在宅にてリハビリを提供している。デンマーク国内の中でも首都に位置し、回復期の中では大きい規模の施設であった。理学療法士、作業療法士が在住し、患者様の送迎は市が運営を担っている。また訪問リハビリには国家資格を持つリハビリスタッフが訪問する他、介護ヘルパーの中でも、指定された試験に合格したスタッフは簡単なリハビリが患者様に実施可能となっている。こちらの施設では、アプリを用いた遠隔通信による在宅トレーニングを患者に提供しており、その詳細をご説明いただいた。
このアプリを使用する患者には、入浴・睡眠時以外は常時センサーを身に着けてもらい、生活動作と1日の活動量を施設のPCに記録しチェックしている。医療者はその情報をもとにアプリ内に登録されている約400種のリハビリメニューの中から的確な内容を選択し患者に提供している。使用するセンサーは装着する患者に合わせて個数や大きさが変更できる仕様になっており、高齢者の場合は直径3cm程度の大きさのセンサー一つをポケットに入れるだけとなっているが、センサーの精度は非常に高く、関節のブレや動作速度までを正確に測定することが可能となっている。
このアプリの使用により、適切な介入が行えるだけでなく、常時モニタリングされていることによって患者の運動への意識が高まり、活動量が増加しているという研究結果も出ており、最低限の通所回数でも高い効果が得られるとのことだった。一方で、急性期での入院期間が短いために精神的不安を抱える患者に対しては、通所回数を増やしたり、面談の機会を多く設けたりするなど手厚くフォローを行っていた。
University of Copenhagenは、Body weight Support Treadmil Trainingを使用した有酸素運動(トレッドミル歩行訓練)を行うことで歩行獲得・社会復帰を目指す施設である。こちらの施設では、使用している装置についてご説明いただいた後、脳血管疾患患者への介入の見学及びハーネスを使用したトレッドミル、クライムミル等での有酸素運動を体験させていただいた。
歩行訓練で使用するハーネスは日本で使用されているものと異なり、両下肢への荷重量や上下運動の高さ、身体の方向を細かく調整できる仕様であった。そのため、より患者一人一人に合った負荷で、実際の生活動作に即した動きを練習することが可能となる。
こちらの施設は自費診療施設であるため、トレーニングの利用回数や時間に制限がない。負荷を調整したstep by stepでのリハビリが可能になるので、10数年の長期間にわたり通所し、生活の質を向上するとともに循環器機能向上・二次疾患予防に繋げている患者もいるとご紹介いただいた。
施設訪問による成果
今回の2施設の訪問により、①先端技術を応用したリハビリツール導入の有用性、②一人ひとりに合わせたフォローの重要性、③高いレベルでの社会復帰、二次疾患予防に繋げることの重要性について実感した。
前述したSundhedshuset amagarでのアプリを用いた通信機器による在宅トレーニングでは、効率的に個々人の日常生活に合わせたリハビリテーションを提供することができていた。こういった先端技術を応用したリハビリツールは我が国では十分に取り入れられているとは言い難い。このシステムは以前から運用されていたが、コロナウイルスの大流行をきっかけに需要が高まり、多くの患者に導入されたという。当初は若年層をターゲットとして想定していたものの、ふたを開けると、感染リスクが高く、外出への負担感が大きい高齢者層でも好意的に受け入れられたとのことだった。
我が国では今後、より一層高齢化が進み患者数が増加することで医療者が不足したり、地方居住により思ったようにリハビリを受けられない患者が存在したりといった問題が生じることが予想される。そうした際に、先端技術を応用したリハビリツールを導入することが、医療者側、患者側双方の負担を軽減しながらも効果的なリハビリを提供するために有用であると感じた。
一方で、Sundhedshuset amagarの患者の中には、対面ではない方法でのリハビリによりコミュニケーションが不足したり、OPE直後の退院による不安感を抱えていたりする患者もいた。Sundhedshuset amagarでは、訪問リハビリであれば移動でロスしていた時間を、患者の意向や特性を踏まえた通院・リハビリスケジュールの検討や、精神面でのフォローアップなどにまわして丁寧にサポートしている様子が見られた。
我が国での現状のリハビリは対面が中心であり、また回復期リハビリ病院も存在するため状況は異なるが、患者が抱えている問題や不安感の大きさには個人差があるということを改めて理解し、患者一人ひとりに合わせたフォローをしていくことが安心感とモチベーションを持ちながらリハビリしていただくために重要であると感じた。
University of Copenhagenでのハーネスを用いた訓練では、より個々人の達成度とニーズに即した動きの獲得を目指していく様子を目の当たりにしたが、それが高いレベルでの社会復帰、二次疾患予防につながっていると感じた。自身の所属施設でのハーネスを用いた訓練では詳細な負荷設定や動きの調整を行うことができないため、達成度やニーズに完全にマッチしたリハビリを行えているとは言い難い。もちろんそれに効果がないわけではないが、退院後の日常生活、社会復帰をより高い水準に持っていくことが患者のQOLを高めたり、自信に繋がったりすると推測されるため、リハビリに使用する機器の性能を高めていくことや、医療者側の配慮で改善できる部分に関しては対応していくことが重要であると感じた。
また、University of Copenhagenは自費施設であるため、二次疾患予防までを視野に入れたレベルでのトレーニングを患者が自発的に行うことができており、実際に効果が上がっていた。自身の所属施設では退院からほどなくして再入院になる患者が少なくない。このような状況を打破するために、保険の範囲で可能なレベルという制約付きにはなるが、二次疾患予防までを目指したリハビリを行っていくことが重要であると感じた。
今回の視察では、デンマークの医療現場の働きやすさとそれによる患者側のメリットについても感じることができた。デンマークは税金が25%と高額であるが、医療費や学費の無償化が実現されており、これが社会全体の平等さ、公平さにもつながっているように感じた。これらは社会制度だけでなく、仕事における姿勢や職場の風通しにも感じられた。
今回、施設訪問で対応してくださったスタッフの方々は施設の責任者であったが、部下に指示をした際、その指示が理にかなっていなければ新人だろうが部下だろうが皆自分に意見するし、自身も上層部の見解に異論のある場合には意見を述べると話していた。また、部下に何か指示をする場合には、達成目標や課題のみを提示し、達成方法は各々に任せ、役職や年齢の上下関係なくそれぞれのエキスパート性を信じ、主体的に動いてもらうことを重視しているとのことだった。これがより自由度が高くブラッシュアップされたリハビリ提供へとつながり、患者は質の高いリハビリを受けることができ、満足度が高まるというメリットがあるように感じられた。
我が国では年功序列の職場であることが多く、自身の意見を発信できない受け身姿勢の若手スタッフも少なくないと感じる。自身は臨床5年目となり、職場では多くの先輩に囲まれながらも、リーダー業務や実習生・新人の育成にも携わるようになった。指示をされる側、する側双方の立場に立つようになり、今まで以上に職場環境を良くしていくこと、主体的に動くことの重要性を感じている中で、デンマークの例は良い刺激となった。今後、よりよいリハビリを提供するためにも今回の経験を大切に、学んだ内容を学会・職場で発信していきたいと感じる。
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