デンマークと日本は制度の違いも多々あるので、福祉を取り入れることの難しさがあると思います。しかし、共通することは支援者が障がいのある人の「自己決定」「充実した暮らし」を支えるために最大限の努力をしなければならないということです。今回の見学で、その大切な理念と実践を学ぶことができ、とても嬉しく思います。
(日本で障害者福祉に携わる◇様ご夫妻が、新婚旅行で当地にいらして下さり、障害者施設のご視察をご依頼下さいました。視察レポートをお寄せ下さいましたので、記載させていただきます。)
北欧の障がい福祉を学んで
私たちは、2015年12月7日、新婚旅行3日目にコペンハーゲンの障がいのある人の日中活動の場「KOLORITTEN」を見学しました。宿泊先のホテルでガイドのウィンザー庸子さんと合流し、バスでKOLORITTENまで案内して頂きました。以下に、見学で学んだことと日本の違い等も踏まえて考えたことを記録します。
施設内見学
【福祉の理念】 KOLORITTENでは、障がいのある人一人ひとりの一日が充実した時になるようケアを行なっています。残存能力を活用できるよう一日中車椅子で生活するのではなく、機能訓練器具が十分にあったり、一人ひとりに合った空間作り、ケアプログラムが作成されていたりします。18歳以上の障がいのある人には障害年金が十分な額支給されるとともに、一人暮らしやグループホーム等住まいの保障、日中活動の場への送迎、働く場等が社会資源として用意されています。
【活動内容】
自閉症の人、若い人、機能訓練が必要な人等一人ひとりに合わせています。 自閉症の人にはボードにその日一日の流れを細かくわかるよう絵カードを使って示したり、きめ細かく声かけをしたりします。
また、コミュニケーションのツールとして「ストーリーボード」を作成し、絵にタッチしてもらい、気持ちを表現できるよう努めています。例えば、面白い顔を選んだあと、理由はこれというように選んでいき、言葉でのコミュニケーションが難しくても、視覚でボードを見て選ぶことができるようになっています。
機能訓練については、バランスを取りやすいよう三輪の歩行車があり、機能の段階に合わせて適切な器具が用意されています。
裁縫の可能な人には一人ひとりのペースに合わせて靴下やランチョンマット等を作ってもらっており、それらをクリスマスマーケット等のイベントで販売します。
質疑応答
Q1.「働く」という概念について、どのように考えていますか。
A1.障がいのあるなしに関わらず、一人ひとりが市民です。家があり、働く場所があり、余暇があります。以前は、センター内(KOLORITTEN内)で仕事を請け負っていましたが、市民に見えるよう可能な人にはスーパー等で働くよう支援しました。社会の中で役割を果たすことは重要なアイデンティティになります。最初に申し上げたように、誰にとっても充実した一日を過ごしてもらうことがこの施設の理念であるため、一人ひとりの「働く」を支援しています。
Q2.重度の障がいのある人の意思は誰が決めると考えますか。
A2.障がいの重さに関わらず、自分で決定する権利、決定する過程に携わる権利を大切にできるよう努めています。例えば、「何が食べたい?」と聞くと応えられなくても4つの中から選ぶことができる、2つの中から選ぶことができるといった具合に、障がいのある人一人ひとり理解度は異なります。支援する側が選ぶことができる過程を提供することが重要です。ストーリーボードのようなコミュニケーションツールもその1つです。ただ、指をさしたり言葉を発したりすることの意思表示も難しい場合は、家族の意思決定が基本となります。家族が虐待をしている恐れがある場合は、市の職員が対応します。
Q3.お話を伺う中で、福祉の理念が市民に浸透しているように思うのですが、障がい者虐待はありますか。
A3.デンマークで産まれ育った人は、障がいのある人には一人ひとりお金が支給され、本人のために遣うことが当たり前の理念としてあります。障がい者虐待については、例えば移民して暮らしている人でそういったケースが報告されています。事例として、障がいのある人が一人暮らしを望んでも家族が拒んだ場合、施設職員は本人の障がい年金を家族が搾取しているのではないかと疑い、市に報告します。市が弁護士等に依頼してお金の遣い方を調査します。
Q4.日本では精神障がいのある人への理解が乏しく、怠けているという印象を持つ人も多くいますが、デンマークはどうですか。
A4.精神障がいのある人は、制度として病休が認められるとともに、今は治療が必要な時期なのだと周囲にも理解が得られます。精神障がいが理解されず、「気の持ちようである」、「怠けている」といった考え方は、アジアらしいと思います。
Q5.最後に、デンマークの障がい福祉の課題を教えてください。 A5.何らかの障がいに加えて、精神障がいもある人について、現状は対応できる専門性のある職員が少ないので、今後のケアの課題であると思っています。グループホームに精神科医が訪問することはありますが、精神障がいを理解した上で、一日の過ごし方をどう充実させることができるのかを模索しているところです。
見学を終えて
私は「障害のある人の働くという意味」、「障害のある人の意思決定」がなんなのかが未だにわかりません。日頃より、「働くことの意味」について考えている中で、今回の施設見学でデンマークの「働くことの意味」は、その人に取って何かある一日をということでした。私はその人にとって「充実」「満足」といった金銭面だけでないことを確信できました。人にとっての「充実」ってなんなんでしょう?人にとっての「満足」ってなんなんでしょう。その疑問を忘れてはいけないことだと気づかせてくれました。
「障害のある人の意思決定」については、見学した施設の職員さんは「家族」次に「職員」が決定するのではないかといっていました。このことが答えだとは思いませんが、自分の目の前の障害のある人たちの意思決定をするときに大きなヒントになるのではないかと思います。その人の意思を決める事は、家族、支援者だけが決めるのではないと思います。最後の当事者が決めるのだと思います。デンマークの施設の職員さんは当事者を誰よりも知る人が決めるのが最良ではないかといっていました。自分もその考えに賛同します。しかし、何がその当事者にとっての最良なのでしょう?この事も引き続き大きな課題だと思います。でもこの2つの事は自分の実践で大きく役立つことだと思います。日本とは違う文化で、障害者権利条約に沿った生活が送れているデンマークだと私は思います。施設見学をして改めて障害者権利条約の大切さを身にしみて感じました。
見学中に出会った人が皆さん、私たち夫婦に「名前は?」と明るく話しかけてくれたことが印象的でした。一人ひとりに気持ちの余裕を感じ、考えられた環境の中で穏やかに過ごしているように思えました。
障がい者虐待があることには驚きましたが、移民の人とデンマーク人との違いという日本にはない課題があることを知ることができました。
デンマークの福祉は、日本のように家族が障がいのある人を扶養することを前提とした福祉ではなく、社会が障がいのある人を支えることを理念とした福祉だと感じました。だからこそ十分な障害年金があり、住まいの保障があり、精神障がいのある人への理解があるのだろうと思いました。
デンマークと日本は制度の違いも多々あるので、福祉を取り入れることの難しさがあると思います。しかし、共通することは支援者が障がいのある人の「自己決定」「充実した暮らし」を支えるために最大限の努力をしなければならないということです。今回の見学で、その大切な理念と実践を学ぶことができ、とても嬉しく思います。
◎番外編
私たち夫婦の旅で、コペンハーゲン中央駅に到着してすぐにホームレスの人を見つけました。デンマークほどの福祉大国であれば福祉を受けられそうなのになぜなのかと疑問に思いました。KOLORITTENへの移動中にウィンザー庸子さんに聴きとったデンマークの暮らしを記録します。
1. ホームレスの人について ホームレスの人のほとんどは依存症です。デンマークでは、求めれば福祉を受けることができますが、そのために依存症の人は回復プログラムに参加しなければなりません。一人ひとりの意思を尊重する国なので、プログラムへの参加を拒否する人はホームレスになってしまいます。
2. 働き方・保育について デンマークは共働き夫婦がほとんどですが残業はなく、15時30分から18時頃に帰宅ラッシュを迎えます。仕事が終われば家族での時間を大切にします。職業上、早い時間に帰宅できない場合は、特別な開園時間の保育園の制度を活用でき、子育てを保証されています。
3. 世界一幸福な国デンマークについて 「幸福な国」というより「満足度の高い国」です。税金も高いけれど、その分社会が支えてくれるシステムが整っているから満足した暮らしができる国です。
4. 感想 私は自分が仮にお金を持っていて幸せでも隣で餓死する人や自殺する人がいる国を豊かだとは思いません。困っている人に社会が手を差しのべる国であって欲しいと願っています。自分はなぜ働いているのか、人生を
豊かにするために何を大切に生きていきたいかを今一度考えたいと思いました。
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