デンマークで自分の写真をSNS上で勝手に使われた青年の話

北欧デンマーク通信

デンマークの教育や生活、働き方、制度やデンマーク人の考え方について

こんにちは！デンマーク公認ライセンスガイド・通訳・コーディネーターのウィンザー庸子です。

北欧デンマークで私が見聞きすること、感じることをお話しています。

最新情報をメールでお届けしています。

また、現地在住ガイドが、本当は教えたくない(？！)とっておきのデンマーク・コペンハーゲンの穴場スポット「コペンハーゲン裏スポット30」も無料ご送付しております！

よろしければ是非、こちらからご登録下さい。

www.hokuoryoko.com

***************

デンマークの人口は約580万人で、これは兵庫県の人口規模とほぼ同じとなっています。ちなみに、コペンハーゲン市の人口は市内が約65万人、市外の住宅地なども入れたコペンハーゲン圏では約130万人で、これは神戸市の人口規模に匹敵します。国土の大きさは九州くらいです。

我が家には、デンマーク人の主人、デンマーク人でもあり日本人でもある、中学校1年生と、4年生の男子2人と、1歳のちょうどお誕生日の日から保育園に入った3歳の女子1人と、日本人の私がいます。

そこで私たちがデンマークで生活する中で感じる、デンマークの教育や、仕事や、生活や制度、デンマーク人の考え方について、お話したいと思います。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

デンマークで自分の写真をSNS上で勝手に使われた青年の話

オーフスに住んでいた22歳のマルテ・プレーン氏は、2015年16歳の時、若者が多く集まる音楽の祭典ロスキレ・フェスティバルで、一人の女の子に呼び止められました。

「ニコライ、あなたって人は、全くどういうつもり？」

彼女はとても怒って行ってしまいました。マルテ氏は、知らない女の子から、何のことだか分からない言葉をかけられて、驚きました。

しかし、その時マルテ氏は、彼女がデートアプリのティンダーで「ニコライ・イサックセン」と親密な会話をした多くの女の子の内の一人にすぎないことを知りませんでした。

偽のプロフィールを使う何者かが、マルテ氏の写真を使っていたのでした。しかしマルテ君には、誰がそんなことをしているのか、全く見当が付きませんでした。

マルテ氏は現在音楽教育を受ける為にノルウェーに住んでいますが、「ニコライ・イサックセン」のことで頭がいっぱいになり、学業に集中するのが難しいと述べます。

マルテ氏の写真が勝手にソーシャルメディアで使われ始めたのは、マルテ氏がまだ14歳の時だったことが分かりました。誰もがそうしているように、たまたま撮った日常の写真を時々インスタグラムやフェイスブックに上げていたのでした。

2年後に、自分の写真がニコライ・イサックセンの名前で多くの人に見られていることに気付きました。「別の人のそういう話を聞いたことがあったので、その時は気にしませんでした。しかし、残念なことに、自分の場合は、これがずっと続いて、状況がどんどん悪化したのです。」

マルテ氏の写真は、インスタグラムやフェイスブックだけでなく、「ニコライ・イサックセン」の名前でデートアプリのティンダーにも載るようになりました。

「できることは何もありませんでした。。。僕自身がニコライ・イサックセンからブロックされていて、プロフィールを見ることができませんでした。唯一出来たことは、自分に連絡してきた人に、偽のプロフィールをソーシャルメディアで報告してと頼むいうことでしたが、ニコライを止めることは不可能でした。」

2018年の夏、マルテ氏には恋人ができました。恋人のテア・ユール・ブルーン氏は、高校の後輩で、ミュージカル「ヘア」の主役の男女を2人で演じたことから知り合ったのでした。本物の恋でした。

しかし、本当のハイスクールドラマと同じように、彼らにも問題が生じました。「ニコライ・イサックセン」が、テア氏のインスタグラムの写真も使い始めたのです。

「初めは気にしませんでした。ちょっと笑ったりしたと思います。私自身も写真を盗まれて、勝手にデートアプリで使われていたことが残念ながらよくありましたから。」と現在20歳のテア氏は述べます。

しかし「ニコライ・イサックセン」は、それ以上のことをし始めました。テア氏の家族が写った休暇の写真や、マルテ氏がピアノのそばで歌っているビデオをテア氏のプロフィールから盗んで、「ニコライ・イサックセン」のアカウントに載せました。

テア氏は、「そのビデオは私にとってとても大切なもので、私はそのビデオを見る度にマルテのことを好きになるので、別のアカウントがそのビデオを使って、別の女の子が彼を好きになるようにしていると知ってとても気持ち悪くなりました。私自身がそのことに加担しているように思えたのです。」と述べます。

テア氏は、プロフィールを許可制にして誰もが見れないようにしました。「私達は付き合っているのに、デートアプリでみんなが彼の顔を見られるというのも屈辱的でした。」

もちろんテア氏は、マルテ氏のことを100%信じていました。「彼に恋をした多くの女の子達が可愛くて、優しくて、賢かったとしても、心配はしていませんでした。彼女たちがニコライ・イサックセンと持っている関係と、私とマルテの関係は、全く別のものですから。でも、だからこそ、私たち皆が同じ顔に恋しているというのは、とても変なことでした。」

デンマークでは何人が写真を盗まれたことがあるという調査は行われていませんが、CNNの報道によれば、フェイスブックは2019年54億人の偽プロフィールを閉鎖しています。

マルテ氏は自分がこの犯罪に対して無力であることを感じ、警察にも行きましたが、現行の法制度では、他人のアイデンティティーを盗むことが経済的な詐欺を招いたり、裸の写真などであったりしない限り処罰の対象にならず、解決できないことを知りました。

この分野の法制度を厳格化することを目指すデジタル化責任協会は、現行の法制度を批判しています。アスク・ヘスビュー・クロー副会長は、「数クリックで簡単に、他人のアイデンティティーを盗み、乱用し、困らせることができるというのは大きな問題です。マルテ氏のような人を守る方策が必要です。」と述べ、下記のように続けます。

「処罰を決めるだけでなく、警察に通告したら、その犯罪が抑止されるようにすべきです。私たちの人生を使って多額の収益を上げるIT企業は、偽のプロフィールを閉鎖したら、マルテ氏のような被害者の役に立てるはずです。被害者自身が何とかしなければいかず、何とかならずに放置するほかないという現状は問題です。」

国会では、与党支持政党エンヘズリステン、与党支持政党ラディケーレ・ヴェンストラ、野党ヴェンストラ、与党支持政党ダンスクフォルケパティが、この問題に対する法整備が不足していることを認識し、罰則法令が順守されているかをデジタル監視することを提案しています。法務大臣はまだこの改正に着手していませんが、政党間を超えた共通の焦点分野として対応していくことが決定していることが公表されています。

経済的な詐欺や窃盗に利用されていなくても、長期間に渡って個人的な写真や生活が悪用されるのは、非常に大きな暴力のように感じられるとデジタル化責任協会アスク副会長は述べます。

「マルテ氏は、人との関係性を深める青年期に10年近くも自分の情報を盗まれていたということは、その後の人生にも心理的な影響を与えてしまうことは明白です。人を信じられなくなってしまいます。自分に関して誰が何を知っているのか分からなくなり、周りの人を偽のプロフィールの作成者と疑わずにはおれなくなります。こんな長期間に渡って苦しまなければならないのは受け入れられないことです。」

2019年マルテ氏は、自分の無力に耐えられなくなり、フェイスブックの投稿で、自分自身に起こっていることを話し、助けを求めました。投稿は拡散され、デンマーク国営放送も「ニコライ・イサックセン」を探す試みを放送しました。

この投稿は問題解決の大きな一歩となりました。まず、「ニコライ・イサックセン」はマルテ氏が考えていたよりもずっと多くの、主にコペンハーゲンにいる女の子とメッセージを交換していたことが分かりました。その一人には、ユーチューバーのアストリッド・オルセン氏も含まれていました。

アストリッド氏は、インスタグラム上で16万9千人のフォロワーにこの問題について尋ねました。すると、複数の女の子が、「ニコライ・イサックセン」とやり取りをしていました。

マルテ氏は、「自分の写真を使ってニコライ・イサックセンがやり取りしていたのは、10-20人位かと思っていましたが、実際には100人以上いたことが分かり、ショックでした。」

被害者には共通点がありました。皆、美しく、聡明で、よい家庭に育った若い女性でした。その多くは高等教育の学業中で、皆「ニコライ・イサックセン」に恋をしているか、好意を抱いていました。

多くの女の子が、「ニコライ」と夜じゅう話し、電話を手に眠りにつき、朝起きると彼の声を聴いたと話しました。彼は女の子達が他の友達と会うと知ると、焼きもちを焼いて、彼自身を傷つけると脅したとも話しました。

マルテ氏は、「悪い夢のようでした。多くの女の子にあることないこと書いて、翻弄したんです。女の子達を何時間も待たせて、結局現れず、だましたんです。自分の顔がそんなメッセージの上に出ていたなんて、受け入れられませんでした。」と述べます。

多くの女の子が存在しない人に恋をしていたことについてマルテ氏は、「重要なことは、女の子達が馬鹿だったわけでも、世間知らずだったわけでもないことです。本物に見せかけていたので、分かるはずなかったのです。騙されたのは、とても聡明な、しっかりした、心の良い女の子達でした。」と述べます。

マルテ氏は、自分が監視されているという強迫観念に襲われました。一人または複数人が「ニコライ・イサックセン」の背後にいて、彼を窓から覗いているのではないかと不安でした。最悪だったのは、自分のことをよく知っている周りの人を疑わずにおれなかったことでした。

このミステリーは終わりを告げました。被害者の女の子の一人が大捜索を実施したことにより、「ニコライ・イサックセン」の背後にいる人物が明らかになったのです。

2012年からマルテ氏の写真を使って女の子達と何時間もメッセージを交換したり電話で大事な秘密を話していた人物のことを知って、マルテ氏は全く人生の目的を失うような気持ちになりました。

なんと、「ニコライ・イサックセン」の背後にいたのは、マルテ氏と同年代の若い女の子だったのです！低い声を出すことによって、誰にも疑いを抱かせずに、長い深い会話ができていたのでした。

「数多くの女の子と非常に深い関係を結んでいたので、複数人が背後にいると思っていました。ショックでした。たった一人のそれも女の子が全ての背後にいたなんて。」マルタ氏は述べます。

最近マルタ氏は彼女と面会できました。彼女は、マルタ氏の写真を使い始めたのは、ごく偶然だったと述べました。2人は知った間柄ではなく、共通の友達もいませんでした。

「会ってみて、理由がより理解できました。彼女自身の個人的な問題だったのです。ニコライ・イサックセンを名乗ることにより、彼女は長期間多くの人から受け入れられ、認められたので、止められなくなってしまったのです。自分にとっても大きな安堵でした。自分が知っている人がやったのではなく、また、自分に対して何か婦の感情を持っている人がやっていたわけではないことが分かったので。」

マルテ氏は、自分の経験を消化する為に、この経験で知った、存在しない人とのいわば陰と女の子達の深い関係と強い感情を「フェイク・ラブ」という歌にしました。

マルテ氏は、偽のプロフィールに写真を使った彼女を尊重し、匿名でいることを希望していることを理解しています。誰だったのか話すつもりはありません。「彼女の人生を台無しにするつもりはありません。安心して、自分の人生を生きてほしいです。別の人格を通じて自分の人生を生きてきたことを想像してみてください。彼女は、自分自身よりも、ニコライ・イサックセンであると感じてきたのです。」

マルテ氏は、誰かのアイデンティティーを盗む人には罰則が加えられるべきかという問いに対して、「難しい問題で答えられません。彼女は罪悪感を感じていたに違いありません。だから、自分自身を受け入れてほしいと願っています。同時に、簡単に逃げられない方策も必要だと思います。違法でなかったら、どこからも助けが得られません。」と答えます。

10年近くマルテ氏を追ってきた影はなくなりました。マルテ氏は、「終了して安心しました。巻き込まれた自分や全ての人が、沢山悩み、これがなければ他のことに使えたエネルギーを大量に費やしてきました。これで次に進めます。」と述べます。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

北欧デンマーク通信　

北欧の福祉や環境政策、さらには心地良いを意味するヒュッゲで知られるデンマーク。

国民みな共働きでワークライフバランス重視の考え方、生き方の、実際どうなの？を、

2003年からデンマークに在住の公認ライセンスガイド・通訳・コーディネーター＆主婦で３人の母親の、

ウィンザー庸子がお伝えします。

ウィンザー庸子のプロフィールはこちらになります。